撮影までのドタバタ話はそろそろやめにして少し真面目な撮影談に入ろう。
先に話したとおり構想としては「通過する列車の光跡」+「星空」+「川のリフレクション」この3つの要素を一枚に撮り込みたい。
・3要素
この3要素の中で重視したのは「星を止めて写すこと」。
つまり星は地球の自転によってどんどん動いているので露出時間(シャッターが開いて光を取り込んでいる時間)が長いと線のように写る。それを点で撮りたいのだ。
・最適な露出時間
では、どのくらいの露出時間なら星を点として写せるのか?
これは使うレンズの明るさにもよる。暗いレンズだと長くしないと光を取り込めないし明るいレンズだと短い時間でなければ動いてしまう。
・500ルール
星を点として撮るための基本として500ルールというのがある。
500÷レンズの焦点距離=露出時間
という計算でおおよその露出時間が割り出せるというものだ。
・使用レンズ
ボクが今回使ったレンズは、この二本。
OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
SONY FE 16-35mm F2.8 GM SEL1635GM
・焦点距離
例えばOLYMPUSのレンズでは8mmというのが焦点距離。ただOLYMPUSの場合フォーサーズという規格なのでSONYと同じ35mm換算(昔のフィルムサイズ:いわゆる一眼レフサイズ)にすると二倍の焦点距離になる。そのためどちらも焦点距離は16mmになる。
・失敗
これを500ルールで計算すると露出時間は31.25秒。
ところがこの秒数で露出するとどちらも星が微妙に動いて線になってしまう。
・高性能レンズ
この原因はレンズが明るいからだ。
例えばOLYMPUSではF1.8というのがレンズの明るさを表す値。この数値が小さいほど明るいレンズだ。
だからSONYのレンズの方がOLYMPUSより暗いレンズということになる。
しかしOLYMPUSのF1.8が異常に明るいのであってSONYのF2.8という値も十分優れた値であることは間違いない。
・露出 時間決定
つまり明るいレンズほど短い時間でも光が十分に取り込めるので露出時間は普通より短くていいということになる。
そのため半分の250ルールで再計算。
すると 必要な露出時間は15.625秒。
そこで露出時間15秒で撮ってみると見事に星が点で写せた。
これで露出時間は決定した。
・一本の光跡に撮る
次は列車を光跡として移す方法だが列車が鉄橋を渡り終える時間は4秒程度。
ということは15秒間露出すれば光跡が一本の線になる。
・重要要素
レンズに関してはもう一つ重要なことがあるので記しておく。
焦点距離が小さいレンズほど広い範囲を写せる。だが、さっき書いたように35mm換算ではどちらも16mmだからどちらも同じように写るのかと言えば違う。
OLYMPUSはFisheyeと付いているようにいわゆる魚眼レンズで非常に特殊なレンズ。そのため撮った写真は大きく歪む。
そのため鉄橋が湾曲している写真はOLYMPUS、まっすぐなのがSONYで撮った写真だ。
・「111歳の夢」
これで「111歳の夢」はOLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROを使い15秒間露光した写真だということがおわかりいただけたと思う。
・大きな輝度差
実際に列車が鉄橋に差し掛かるの見計らって撮ってみるとライトを点けた列車は非常に明るい。
星の明るさをちょうどよく撮ろうとすると列車の光跡はいわゆる白飛びしてしまう。
何度も設定を替えて撮ってみた。
・満足とはほど遠く
その場ではうまく撮れたように思えても帰宅して大きなモニター画面で見るとなかなかうまく撮れたというものが少なかった。
実際「111歳の夢」は現像段階でかなり無理をして仕上げている。だから決して満足の行くものではない。
この点は非常に悔しくてできることなら今年もう一度挑戦してみたいと考えている。
では、なぜ不満足な作品を応募したのかについては最終章で書くことにしたい。
・新たな表現
そんなわけで通過する列車を一本の光跡として写すことはそれほど難しいことではなかった。
何度も撮っているうちにタイミングが合わず橋の途中で撮り始めたものがあった。すると橋の途中から光跡が始まっている。これは面白いと思った。
・15秒という壁
ところが、この記事の一番初めに書いたとおりこの撮影ポイントではいつ列車が現れるのかを音などで確認するのが難しい。そのため来る頃合いを見て早めにシャッターを切るのだがこれがうまくいかない。タイミングが遅くて通り過ぎたり手前過ぎたり何度も何度も失敗を繰り返した。
・ひらめき
そんなことを繰り返しているうちに、ふと思った。
「来るのを待って途中で止める光跡」と「通り過ぎる時、途中から撮り始める光跡」はそう違わないのではないか?
つまり今までは列車の光跡を止めたいところに列車が来る15秒前からシャッターを切っていたが通り過ぎる列車が橋に差し掛かって光跡を残したいところに来てから15秒間撮影すればいいのではないか?ということだ。
結果は上々。
・気づいてみれば
気づいてみるとどうしてこんなに簡単なことに気づかなかったのかと思う。この撮影方法に気づくまでに一ヶ月以上掛かったがやっと列車の光跡と星を同時に収めるコツがわかった瞬間だった。それからは気持ちに随分余裕ができた。
・撮影後も難航
こうして苦労に苦労を重ねた撮影だったが、その後の現像作業やテストプリントも難航した。その話は書かないが今回の経験は決して無駄にならないと思う。
・高みを目指す
この記事で今回得たテクニックなどはすべて書いた。
世の中には写真のうまい方やテクニックをお持ちの方が星の数ほどいる。ボクのような遠回りをせずとも簡単に撮れてしまうのかもしれない。
もしそうなら正直悔しいがぜひ見せていただきたい。そしてそのテクニックを教えていただきたい。お互い情報交換してさらなる高みを目指したい。
今はそういう心境だ。
・いよいよ完結
ずいぶん長い記事になってしまったが次で最終話。
なんとかお付き合いいただきたい。
僕は写真をやらないのでよく分からないけど・・・、写真撮影は、すぐれてエンジニアリングの世界に属することがわかりました。草の根的なエンジニアリングを愚直に続けることで、表現に形式が生まれ、やがてそれが様式になるのでは・・と感じました。
パルプタウン様
コメントありがとうございます。やはりカメラは機械なのでその仕組をうまく使いこなすには様々な設定が必要になります。そのためいろいろな人が工夫をして「こうすれば星が撮れるよ」とか「こうすれば逆光でもきれいに撮れるよ」などの情報を雑誌やネットで発信しています。でも、そうした情報はその条件下での解であって絶対ではないのでそれぞれがさらに工夫する繰り返しです。ですから星も工夫すれば都心の明るい環境でも撮れるようですからやってみてはいかがですか(^^